除夜のテキストラーイク祭り


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「若さと退屈と、受話器の向こう側と。」


田舎と呼ぶには少し進んでいて、都会と呼ぶには小さすぎる、そんな中途半端な町田舎に住んでいた。中学生だった。僕らはいつもヒマをもてあましていた。僕とフジワラは、土曜日の授業が終わると、決まってサイトウの家に集まり、男3人でどうでもいい話ばかりして過ごした。


家に入ると、サイトウはエッチな雑誌を自然なしぐさで僕たちの前に置いていくという、実に心にくいサービスをするのであった。エッチな雑誌の巻末は、大抵はあやしいページと決まっており、そこには、筋肉でムキムキの男が歯茎をニンマリ見せてダンベルを薦めていたり、ライトが強くあたった女の人と風俗情報が載っていたりとか、テレクラの番号とかが書かれていた。


その日も同じように3人が集まり、ゴロンと寝転がりながら時間をつぶしていた。すると、フジワラがそのエッチな雑誌をペラペラとめくりながら言った。「なあ、テレクラにかけてみーひんか?」フジワラが言うにはこうである。テレクラの電話番号は、男性用と女性用に分かれている。男性用にかけるとアホみたいにお金がかかるが、女性用にかけるにはタダである。だから、女性の番号に、タダでかけよう。女性の声色を出して、男性がだませるかどうか、やってみると面白いぞ、と。


「おう、やろうやろう」こういう話にまず乗ってくるのはサイトウだ。早速、「アー、アー」と、女性の声とおぼしき奇妙で甲高い発声練習を行っている。高音を得意とする彼が乗ってくると、僕たちも「これはおもしろくなりそうだ」と感じる。まだ見ぬピンク色の大人の世界を垣間見る怪しさと、怖さが味わえる興奮が押しよせてきた。サイトウが電話のプッシュホンを押すと、みんなが黙り、空間が静けさを持つ。電話がつながる間、3人の顔は真剣そのものであったが、誰も笑わなかった。


「アー、モシモシ」つながった。「アノー、ワタシ・・・あ。」すぐさま切られた。予想はできていたが、やはりダメだった。やはり現実は厳しい。あっちは1時間ウン千円もお金を払って狭い個室に入り、精神を集中させて相手からのコールを待っている。男からのイタズラ電話とわかったら、切られてしまうのは当然だった。


しかし、サイトウはあきらめなかった。もう一度、発声練習をすると、再び電話番号を押す。「アー、モシモシ。・・・アッ、ハイッ・・・エエ。ソウナノ・・・。」どうやら、会話が成立しているようだ。


信じられない。僕とフジワラは笑いをかみ殺すのに必死だった。なにせ、今テレクラ男がかけているのは、毎日部活に打ち込む、真っ黒でがっしりした野球少年である。目はくりっとしていて、見ようによってはかわいいかもしれないが、テレクラ男が求めているビジュアルは、こんな姿ではないだろう。


だが、サイトウの声色はカンペキではなかった。数分話すうちに、サイトウの返答に焦りが出てきた。「・・・エ、エエ、(受話器をふさぐ)やばい、ばれた!」話しているうちに、やはり男の声だということがばれたらしい。そして、とっさにサイトウはこう言っていた。




「アタシ、オカマナノ。」




苦し紛れに、事態は予想もつかない方向へと向かった。これで、テレクラ男に電話は切られてしまうだろうが、無謀にも大人の扉をたたき、数分といえ大人の男と堂々と相手をし続けたサイトウを僕たちは賞賛する。そして、いつもの土曜日に戻る


はずだった。




「・・・エエ、マイニチキャバクラデハタライテイテツカレチャウ・・・ウン、ウン、ソウナノ。」どうやら、テレクラ男はオカマ設定のサイトウでオーケーのようだ。サイトウとテレクラ男は盛り上がっている。僕とフジワラは予想外の展開に驚き、そして偽オカマを頼もしく見上げる。


しかし、相手の会話が聞こえないと、それほど興奮は長続きしない。オカマとして自然に会話をつなげられる仲間を見るのは新鮮ではあったが、それ以上の大きな展開というのもなさそうに見える。やがて、フジワラが口を開いた。「なあサイトウ、そろそろ電話切ろうや。そや、ヤクザが帰ってきて、テレクラにキレて、怒って電話を切ることにしよう」全く無茶苦茶なシナリオをサラリと作ると、ニヤリと僕を見る。どうやら、僕にヤクザをやれということらしい。マジですか。


「それ無理やって・・・」


生まれてこのかた、ケンカのたぐいは避けてきた人間だ。「ケンカ」と「ひ弱」の2種類があれば、迷いなくひ弱な部類に分けられる、そんな男にヤクザ役をやれ、と。僕は、首を振って拒絶した。しかし、テレクラ男と会話しながらも瞬時に指令を読み取ったサイトウは、すでに次の行動に出ていた。あいづちを打っていたところを、「・・ウンウン。アッ」と無理矢理別の人間に電話を奪われたかのように叫ぶと、僕の目の前に、ぐっと突き出してきた。


痛恨のバトンパス。受話器を見て吐き気をもよおしたのは、後にも先にもこの時だけだ。


でも、この空気は断れない。僕は、意を決して受話器をにぎると、低音をうならせて、ありったけの怒号を出す。


「おうこら、お前オレがおらん間にナニしとんじゃ。なめとったらシバキマワスぞ、ボケ!」


ミナミの帝王と吉本新喜劇の知識を総動員して、偽ヤクザは叫ぶ。しかし、僕のヤクザボキャブラリーはこの程度だ。それ以上つなぐ言葉もなかったので、脅し文句が終わるや否や、すぐさま電話を切った。サイトウとフジワラが笑った。僕も大役を果たせたことに満足していた。しばらくは、さっきの可愛そうなテレクラ男のこととか、サイトウのオカマのなじみ具合をたたえあった。


「あー、おもろかった。もっかいやろ」と言い、サイトウは再び電話を手に取った。どうやら、サイトウは相当オカマが気にいったようだ。(もうええやろ、そろそろこの辺が引き際ではないのか・・・)僕とフジワラはすこし食傷気味だった。しかし、サイトウはすでにプッシュホンを押していた。受話器を握ったサイトウの口角が微妙に上がっている。どうやら彼は、僕らを置き去りにして、特別な世界への階段を、一歩一歩上りはじめたようだ。もはや、彼を止めるものは何もない。「アー、モシモシー」




「・・・アッ」急にオカマ(サイトウ)が小さく叫んだ。




「・・・エエ(受話器をおさえて)さっきの奴や」どうやら、先ほどのテレクラ男がまた電話を取ったようだ。電話が鳴ったら、通話が早いもの順につなぐのがテレクラのシステムらしいが、テレクラ男が異様に取るのが早いのか、もしくはそのテレクラには、テレクラ男ひとりしかいないのか。そのどちらかはわからないが、テレクラ男と偽オカマの会話は続いていた。「カレ、オコッテワタシヲオソッテキタノ・・・フクモビリビリニシテ・・・ウン、スゴクコワカッタ・・・」


そこには悲劇のヒロインとなった、ノリノリのオカマがいた。どうやらこの短期間に、男を弄ぶコツを覚えたようだ。テレクラ男は真剣に同情している。「ウン、モウオコッテデテイッタカラ、カレハイナイワ」その後、僕が担当したヤクザはもういないのかと聞き、怯えているようだ。なぜだか僕はうれしかった。ありがとう、萬田はん。


そして、またエロいトークがはじまった。僕もフジワラも、少しは楽しかったが、最初の時のようなドキドキ感はなかった。テレクラ男の反応も新鮮さがなく、オカマ声を使いこなす友人を見るのも飽きてきた。僕たちは、またゴロンと床になり、エッチな雑誌やらマンガやらを読みはじめた。サイトウのオカマ声だけが、むなしく部屋に響く。


その後、サイトウはようやく電話を終えて、こっちの世界に帰ってきた。連絡先やら居場所のたぐいは聞かれなかったようだ。とにかく無事で何よりだ。その後、予想外の成功に僕たちは沸いた。興奮して、さっきの展開を再現しては笑いあった。そして、サイトウはひとしきり笑ったあと、急に神妙な顔つきになり、腕組みをしながら言った。「しかし、あの男も可愛そうな奴やな。」


僕は思った。






お前が言うな。


土曜日にまた、ヒマな午後が訪れた。







著者:「あしもと。」 kaz

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