除夜のテキストラーイク祭り


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新年明けましておめでとうございます。


* * *


 仕事から帰ってきたら妻が「お帰りなさいアナタ。ゴハンにする、オフロにする、それともハ・ラ・ワ・タ?」とか意味の分からないことを言っていた。とりあえずゴハンと言うと妻は残念そうな顔をしていましたけど、ハラワタって一体なんの事だろうか。やや物騒な響きがする。そもそもあまり日常的にハラワタっていう言葉を使わない。腸が煮えくり返る、というような使い方はするけど、あんまりハラワタ単体でしかもストレートにハラワタって言わないだろう。妻は僕が「じゃあハラワタで」とネクタイを緩めながら言ったとしたらどうするつもりだったんだろうか。もっていた包丁でグサリ、と僕のハラワタ をえぐりだしたのだろうか。それとも頬を朱に染め上げながら「これ、アタシのハ・ラ・ワ・タ(はぁと)」なんて言いながら自分のハラワタを何か、酢の物とか入れるような小鉢的なものに入れて差し出すつもりだったのだろうか。小鉢的なものに入っていたら僕も「もしかして塩辛…?」なんて思いながら一口パクリと言っちゃうかも知れない。どう、おいしい?と首をかしげながら聞いてくる妻の姿に、言葉に出来ないような初々しさに似たようなものを感じて興奮する自分と、なんか変わった味だねこれ何?と聞くことを生理的に拒否する自分との間で葛藤が繰り広げられる。つまり何が言いたいかって言うと結婚って大変ですねえ。


* * *


 コーラの炭酸が抜けていた。着実に、それでいて大胆にもコーラの炭酸は抜けていた。僕はあまりにも突然の炭酸の蒸発にいささか動揺していた。炭酸が出て行ってしまったコーラは、冬から雪の姿が忽然と消えてしまったがの如く、当たり前であり続けた日常の崩壊を静かに、それでいておびただしいほどの絶望と共に知らせてくれた。僕の手元からペットボトルがするりと抜け落ち、コーラでない何かが入ったペットボトルはそのまま床に落ち、爆発した。炭酸が入っていないのに爆発した。世界は滅びた。


「抜けた炭酸なんて、また入れればいいじゃない」と彼女は再生された世界で言った。再生された世界は東京ドームのような広さがあり、むしろ東京ドームそっくりだった。彼女はホームベース横でジンジャー・エールを飲んでいた。彼女のノドを涼しげなリズムが流れていくのが僕の目に映る。ごくり、ごくりと彼女は1.5リットルのペットボトルを一気に飲み干して、「ごめん、もう一本ある?」と僕に尋ねた。彼女は笑顔だった。その笑顔はいつか昔、僕の横をすり抜けていった八月の風のようにさわやかで、そして適度な湿っぽさを残していた。「炭酸の抜けたコーラならあるけど、いいかい?」と僕は床に転がっていたままのコーラを拾い上げ、彼女に向かって投げた。僕の手元から彼女の手元に時速150キロで飛んでいく炭酸の抜けたコーラは、メジャーのスカウト陣の目に留まった。彼女は手にはめたキッチン・ミトンで炭酸の抜けたコーラを受け止めて、「今のもしかしてジャイロボール?」と言った。


 次の年、僕はレッドソックスに入団した。彼女は滅びた。


* * *


 さて、今あなたの目の前にシンデレラとねずみが一匹がいます。どうしよう。どうしようと言いながらもあなたはきっと、「ねずみを一匹とかぼちゃを一つ、あとねずみを一匹捕まえてきなさい」と言うでしょう。だってあなたは魔法使いなのだから。魔法使いが魔法を使わない手はない。もしあなたが魔法使いで、仮に魔法を使わないとするならば、それはもうあれですよ。ねずみを一匹捕まえてきなさい。


 シンデレラは必死になってねずみを一匹とかぼちゃを一個、そしてねずみを一匹とねずみを一匹捕まえようとしますが、結局朝が来るまで捕まえる事は出来ませんでした。朝になって舞踏会から帰ってくる意地悪な姉達とねずみが一匹。シンデレラは激怒しながら魔法使いに迫ります。「なぜこんなことをするのです」すると魔法使いはこう言うのです。「私はあなたと一緒にいたかった。それでは不満でしょうか?」そう言いながら魔法使いが被っていたフードを取ると、なんとそこにいたのは王子様とねずみが一匹ではありませんか。


 こうして王子様とねずみは末永く、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。




* * *


 終わらない物語なんてないんだ、と彼女は言った。


 それは止まない雨がないのと同じように、僕たちの間を吹き抜けていく風がいつか流れるのを止めるのと同じように、ただただ静かに終わりに向かっていくのだと彼女は言った。


 その世界には既に音がなかった。「二週間ぶりにね映画を見たの」彼女は空っぽになったマグカップを弄びながらそう言った。「つまらない映画。私はね、その映画が流れている間、あなたと出会ったときのことを考えていたの」確か二人が出会ったときもまた音のない世界だったと僕は記憶している。その記憶も、既に流れるのを止めている。「不思議よね。まったく感動しない映画なのに、涙が出てきたの。ぽろぽろとこぼれてきて止まらなかった。私はね、そのとき分かったの」


 止まらないものが、この世界にもあるって。


 彼女は立ち上がり、そのまま出入り口に向かっていった。彼女は一度だけ僕の方を振り返り、「あなたも、止まらないのね」と言った。その顔は笑顔だった。僕は彼女が残した空っぽのマグカップを両手で包んだ。随分前に中身を失ったマグカップは、彼女のほのかなぬくもりを残していた。


* * *


 終わらない物語なんてないんだ、と彼女は言った。※1


 それは止まない雨がないのと同じように、僕たちの間を吹き抜けていく風がいつか流れるのを止めるのと同じように、ただただ静かに終わりに向かっていくのだと彼女は言った。※2


 その世界には既に音がなかった。※3「二週間ぶりにね映画を見たの」彼女は空っぽになったマグカップを弄びながらそう言った。「つまらない映画。※4私はね、その映画が流れている間、あなたと出会ったときのことを考えていたの」確か二人が出会ったときもまた音のない世界だったと僕は記憶※5している。その記憶も、既に流れるのを止めている。「不思議よね。まったく感動しない映画なのに、涙が出てきたの。ぽろぽろとこぼれてきて止まらなかった。私はね、そのとき分かったの」


 止まらないものが、この世界にもあるって。※6


 彼女は立ち上がり、そのまま出入り口に向かっていった。彼女は一度だけ僕の方を振り返り、「あなたも、止まらないのね」と言った。※7その顔は笑顔だった。僕は彼女が残した空っぽのマグカップを両手で包んだ。随分前に中身を失ったマグカップは、彼女のほのかなぬくもりを残していた。※8


※1 同時に物語を始める事が出来るバリュープランをお選びいただくことも出来ます。

※2 上記のプランと重ねてご使用いただけます。

※3 バリュープランとの併用はご利用いただけません。

※4 おもしろい映画を見ていただくにはプラチナプランのご加入が必要です。

※5 記憶に関するご質問はお断りさせて頂きます。

※6 当社では取り扱っておりません。

※7 プラチナプランは2008年1月4日を持ちまして終了とさせて頂きます。

※8 ぬくもりを御使用の場合はカスタマーセンターへご連絡ください。






著者:『中継がつながっています』 羽田

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