除夜のテキストラーイク祭り


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「踊る絶望」




絶望というものに辟易しているのだ、彼は言った。
「あちらのやつもこちらのやつも皆、みんな絶望を背負って重い顔をして歩いていやがる。」
彼の独り言を傍らで聞いていた美智子はなんだか寂しくなって、それでも彼の言うことの半分も意味がわからなかったから今度は悲しくなった。
「飽き飽きしちまったのさ」
美智子は少し考え、突き放すような口調の彼に向かって恐る恐る口を開いた。実際のところ、強い口調でしゃべる人がまわりに居た事がなかったから、怯えて、声は上擦っていたけれど、薄暗い部屋の中は静寂に包まれていたから、それでもよく響いた。声は大きすぎるくらいだった。
「でも、ねえこうは考えられないかしら?絶望を背負って、みんなできる範囲で頑張って歩いてゆくけど、一人じゃ限界があるわ。それで、誰かに助けてほしいといつも思ってる。重さを肩代わりしてほしくて、それをしてくれるであろうあなたを選ぶの。だから、あなたは人より絶望を背負った人に出会う頻度が高いのよ。それだけのことよ。些細なことだし、しかも尊いわ」
「どうだか」
彼は鼻を鳴らすと、天窓から見える光に目を細めた。曇っていてぱっとしない空模様だったが、この地域にしては、過ごしやすい気温の日で、実際、彼も、そう思った。
「じっさいね、俺は思うんだけど、自分が背負うべき荷物を、それがいくら辛いからと言って他人に負わせて逃げようって言うのはそりゃ怠慢だし、ただ分かち合おうっていうだけでも、それは大きな罪じゃないのかい?なにしろ、みんなは気付いちゃいないみたいだから言うけどさ、俺にだって背負ってるものはあるんだ」
「差別のない平和な世界や、全人類は公平であるというような話がしたいのなら、私には無理だわ」
「まさか。人類がいるかぎり不具者は差別され続けるし飢えで死ぬ人間と高血圧で死ぬ人間は同じ空気を吸うのさ。俺の言いたいのはそんなことじゃない。ただね」
彼は冷笑的に口許をゆがめると、片栗粉を溶かしたような空をもう一度見上げた。そしてさっきと同じように目を細めたが、その視線は具体的な何かを捉えていた。たぶん鳥だろう、美智子は思った。
「俺にも感情はあるってことさ」
「そうなの?」
「そうさ」
町は、びっくりするほど静かだ。今日のこの時間が特に異常なのではなく、いつもこの辺一帯は、町の栄えた部分から離れているせいで、静寂に包まれている。朝夕にわとりがときを知らせて、そのほかは自分たちがプラタナスの葉を踏むときだけかさこそと音がする。あと数ヶ月もすれば、雪が降るだろう。美智子は早く降りすぎた雪が、ナナカマドの真っ赤な実に積もって、淡いピンクに見え、真っ白に止まった世界の中で立ち並ぶ桜並木のような光景を思い浮かべて、本来ならばゆっくりと微笑んで見せるものが、今回はなぜだか、形にならずに、どうにかしてむりやり繕ったその表情は、泣きそうなものに見えた。
「でもね、でもよ、一緒に背負ってほしいのじゃなくて、一歩でも自分の立っている場所から上にあがりたいという気持ちのあらわれかもしれないわよ。絶望が重すぎてどうにもならないから、引き上げてくれるであろう人を待っているのかも」
「クソくらえだね。人から引き上げてもらった場所に足場なんて存在するもんかい」
「それ、傲慢に聞こえるわ」
「そうかい。でもあんたは頭の悪い傲慢者だ。俺からすればね」
「どっちのほうがいいと思う?」
「頭が悪いほうが、罪がなくていい。意見をころころ変えても、許されるさ」
そうだろ、彼は言った。
「ただね、ただ俺は、あんたに死んでほしくないんだよ。あんたを殺したくもないんだ。つまり、あんたの背中に絶望があるなんてことを、認めたくないんだな。それにさ、」
愚か者が自殺をしようなんて、分相応を過ぎた贅沢ってもんじゃないのかい?それとも、これは、俺のわがままによる、屁理屈なのかな?
そうかもね、美智子は言って、それから悲しく微笑んで、部屋を出て行った。部屋は無人になり、天井のあちらからこちらにかかる桟のまんなかに、一本の縄が縛り付けられていて、先端は丸く折り返して途中のところで結んであった。床には小さな丸椅子が転がしてある。風もないのに、きいとかすかな擦れる音がして、その縄が揺れた。







著者:「今日も元気に緑色。」 おーん宅人

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