除夜のテキストラーイク祭り


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新本格ミステリ小説『未必の故意』




年末は犯罪が多い。


単純に年の瀬で、切羽つまったテンパった社会不適合者が一線を越えてしまったのと、犯罪検挙率を底上げするために十二月に一年の帳尻を合わせようと、切羽つまったテンパった警察権力の無駄なガンバリとの相乗効果である。
それは捜査一課の鬼のデカ長、と呼ばれるこの私も例外ではない。
(※デカ長という役職はありません)


この地域は犯罪が多い割に、恐ろしいまでの検挙率の低さを誇っている。
そもそもSATも配備されていない地方警察署に人手があるわけがない。
だがそれはとりもなおさず、腐れ犯罪者どもがのうのうと国内を闊歩していることを示している。
そんなことは、この鬼のデカ長が許さない!
(※デカ長という役職はありません)


せめて隣の地区の警察署には勝たないと格好がつかない。
資料によるとあと108件ほどで追いつくはずだ。
ちょうど煩悩の数と同じということで、今回の趣旨を察していただけるとありがたい。
というわけで、犯人を鬼ごっこのように追い詰めることからリアル鬼ごっこのデカ長と呼ばれたこの私が現場に赴いて、犯罪者どもを逮捕するしかない!
(※デカ長という役職はありません)


「課長、どこ行くんですか?」
「課長じゃない、デカ長と呼べ」
(※デカ長という役職はありません)
「で、課長、どこ行くんですか?」


むぅ、明らかにデカ長って呼んでないのに「デカ長」と「で、課長」でダジャレになっているのがムカつく。
こんなクズなどとは仕事はできない、私は1人で捜査を開始することにする。
刑事は二人一組で行動するなどという不文律など、手柄を人に譲ることから泣いた赤鬼のデカ長と呼ばれる私には関係ない!
名刑事はいつも1人!
(※デカ長という役職はありません)




しかし、連続殺人事件は部下が担当してるし、収賄や汚職は部署が違うから情報が入ってこない。
そもそも、今から情報を集めていたら百件もの事件など処理できない。
ここは小さな事件をスピード解決して数を稼いでいくしかない。
と、資料室で未解決事件を調べていたら携帯に着信があった。


「お兄さん、聞いとくれよ」
「大家の婆さんか、何度も言ってるだろ。お兄さんじゃなくて鬼のデカ長だ」
(※デカ長という役職はありません)
「嫁がひどいんだよ」


私のアパートの大家はいい人なのだが、何かあるとすぐに愚痴を聞かせようとしてくる。
あと「お兄さん」と「鬼さん」で苦しいダジャレになってるのもムカつく。
忙しいからと切ろうとしたが、ふと思いついたことがある。


「婆さん、嫁が何をしたんだ?」
「ひどいんだよ、ジャガイモ嫌いなのに揚げポテトとか言って、無理やり食わせようとするんだよ」
「分かった、すぐ行く」
「へ?」


婆さんもまさか、仕事を放り出してくるとは思っていなかったらしく、素っ頓狂な声を上げる。
だが私は何も仕事を投げて人助けをするわけではない。
ダテに、週末にいつも日光宇都宮の温泉に行くことから、鬼怒川温泉のデカ長と呼ばれているわけではない。
(※デカ長という役職はありません)


数十分後、アパートの大家の部屋に飛び込んで、嫁に手錠をかける。


「ちょ、ちょっと何するんですか」
「貴女を殺人未遂の罪で逮捕する」
「えぇ!?」
「ジャガイモなどの、でんぷんが多く含まれる食物を高温で調理すると、アクリルア
ミドが発生する。アクリルアミドは紛れもない発がん性物質だ。
ポテトチップスは食物繊維を摂取できる健康的な食品? フッ、それはカ○ビーが仕掛けた罠。覚えておけ、ジャガイモは揚げるな、茹でろ!」
「そ、そんな、知らなかったんです!」
「知らないで済んだら警察はいらねぇんだよ!」


最寄の交番に引き渡して、後は任せた。
恐らく、証拠不十分で釈放されるだろうが、署で書類を操作して裁判までこぎつければこちらのものだ。
とにかく立件して検挙したという事実があればいいのだ
大家の婆さんに感謝されたが、そんなものを聞いている暇はない。
コツはつかめた、後はこの調子で刑事事件にこぎつけるのだ!


「心臓病から回復した人は、血液が固まって血栓ができるのを防ぐワルファリンカリウムを服用することが多い。そこで納豆やブロッコリーやほうれん草を食べさせると、過剰になったビタミンKがワルファリンカリウムの作用を阻害して脳梗塞を起こす!」
「そんな!」



「車にドライアイス、つまり固体化した二酸化炭素を大量に入れてエアコンをつけると気化していく。急速に二酸化炭素濃度が上昇して大気の7%を超えると、中枢神経が抑制され意識障害を伴う、炭酸ガスナルコーシスという症状を起こす。車の運転中にそんなことが起きたら、間違いなく事故を起こす!」
「知らなかったんだ!」


「屋外で漬物を仕込むと、泥などが微量に入ってボツリヌス菌が増殖する。空気が入らないように密封して保存しておいたら、なおさらだ。だからサザエさんに代表される一般家屋ではキッチンに収納床がある。
アパートのベランダなど言語道断!」
「タメになるなぁ!」


「寝ている間にハロゲンヒーターに当たると凍死することがある。汗の気化熱によって体温が奪われ低体温症で死亡するためだ。犯人はいっしょに体が冷えるような食事を取って、タイマーをセットして帰った貴様だ!」
「あ、あいつが悪いんだ!」
「え、マジで!?」


途中、ホンマもんの殺人鬼もいて、さすがに殺人鬼のデカ長とは呼ばれていない私もビックリしたが、なかなか順調に進んでいる。
(※デカ長という役職はありません)


なにやら複雑な事情があったみたいだが、時間も興味もないので無視した。
犯人の独白とか、書類の前でしゃべってもらいたいものだ。
あと、犬にタマネギを食わせると、ネギ類に含まれる有機チオ硫酸化合物が、還元型のグルタチオンやハインツ小体を持つ赤血球と過剰な酸化を起こして、異物として体内免疫体に破壊されて溶血性貧血を起こして、場合によっては死に至る。
という知識も披露したかったのだが、私は犬が嫌いなので立件しなかった。
誰が国家の犬だ!


とにかく、どんな犯罪行為も人の意思というものが、殺意としてそこにあるかどうかが問題となる。
故意であったかもと思わせる、理系的知識があればどんな犯罪もこじつけが可能となる。
いわゆる「未必の故意」が作り出せるのだ。

あとはホームレスという社会のダニどもを軽犯罪で引っ張ったり、クリスマスも過ぎてるのにイチャイチャしているクズカップルどもを仲良く公務執行妨害やわいせつ物陳列罪でぶち込んだ。
権力ってすばらしいね。
そんなこんなで、すでに百は超えたろうというときに、何者かに背後から殴られた。
しまった、このまま死んでしまったら、鬼籍のデカ長と呼ばれてしまう、そんなことを考えながら意識を失った。
(※デカ長という役職はありません)


気がつくと、コンクリート打ちっぱなしの部屋に閉じ込められていた。
妙なのは、窓はおろか出入り口が見当たらない。これでは脱出が困難だなと考えていると、背後に人の気配を感じた。


「課長、気がつきましたか」
「……課長じゃない、デカ長だ」
(※デカ長という役職はありません)
「で、課長、気分はどうですか?」


どうやら私を部屋に閉じ込めたのは、役立たずな部下であるらしい。


「課長がやたらめったら一般人を逮捕してくるものだから大変なんですよ。そこで、
内側からコンクリートで固めた部屋に閉じ込めておくことにしました。いわゆる密室です」
「ふん、年明け前には出してもらうんだな、監禁事件でお前を訴えるからな」
「ところで課長、僕、前から課長のことが」
「え、いや、ちょっと待て、顔を赤らめて迫ってくるな! お前は男で私も男だろう、どちらかが女性だったら叙述トリックになるけれど、ホモか、ホモなのか!?」


私の背後で、何かがブチ、と裂ける音がした。
あまりの屈辱に、自殺を決意する。
だが、どうせ死ぬならと気の利いたダイイングメッセージを残すことにした。
血液を指でなぞって。床のコンクリートに文字を記す。


数字で「108」と書いた。
ひっくり返すと「801」というわけだ、ハハハ。


そして私は、舌を噛み切った。
それでは、よいお年を。




新本格純愛小説『密室の恋』完





著者:「イカ様はタコなぐり」 タコなぐり

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