除夜のテキストラーイク祭り


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「蜘蛛」


俺は夏生まれの脂性でして、夜に風呂に入っても朝起きると髪の毛が油でべっとりになります。高校生の時まで自分が脂性という自覚は無く、高校3年の時に同級生から指摘されるまでは気にもしていませんでした。高校生の頃と言えば本来なら青春真っ盛りな時期なはずで、髪型とか服装とか外見を気にするものですが、俺の場合は一度校門でライブチケット売りをしていた女の子にセールストークをかまされた時以外に女の子と言葉を交わした事などありませんでした。きっと性に目覚めるのが遅かったんでしょうね。大抵の男なら中学生の頃から性に目覚めて女の子と仲良くなろうと盛んに活動するのでしょうが、卒業式の時の寄せ書きが半分真っ白でしたので、俺はいかに女の子との交流が無かったのかがわかります。ともかく、それからというもの俺は毎朝風呂に入らないと外出できないようになりました。祖父が危篤の状態で今すぐ出て行かないと死に目に会えないという日でも俺はすかさず風呂に走った記憶があります。






去年の話です。いつもの様に朝起きた俺はバスタオルを持って風呂場に行きました。湯船に浸かった俺は何となく風呂場の隅に目をやったのですが、そこには一匹の小さな蜘蛛が小さな巣を張って住み着いていました。別にそれほど家はボロイわけでは無いのですが、蜘蛛の巣が張るのはいい気分ではありません。俺はティッシュを取りにバスタオルを腰に巻いてリビングに戻ろうとしたのですが、よく考えると蜘蛛がとても小さいことが気になりました。普通の大きさの蜘蛛なら風呂場に入ったら直ぐに気がつきます。だけども、この蜘蛛は湯船に浸かって近くで見ないと気がつかない程に小さい蜘蛛なのでした。子供の蜘蛛だったのか、小さい種類の蜘蛛だったのかは俺にはわかりませんでしたが、こんな小さな蜘蛛が男一人暮らしの風呂場の隅なんかに蜘蛛の巣を張って生きていけるわけがない。ましてや、メスの蜘蛛なんているわけが無いんだから繁殖だってでできやしない。きっと少ししたら自分で勝手に出て行くだろう。湯船に戻った俺はその小さな蜘蛛を眺めながら見逃す事に決めたわけです。






ところが、蜘蛛は1週間経っても2週間経っても出て行く気配がありません。俺が風呂に入る度に水をかけたりして嫌がらせすると蜘蛛は上がったり下がったりしているので死んではいないようです。2年前に仕事をやめて一人で飯を食うようになってからの俺は友人との交流も激減し、毎朝風呂には入るものの外出は近くのコンビ二でタバコを買うくらいで黙々と家で仕事をする毎日が多くなりました。数年前までの俺は携帯料金が2万円を超えることなんて珍しくなかったのですが、今は殆どが5千円代です。俺は2週間を越えた辺りから蜘蛛に嫌がらせをするのをやめました。最近孤独に恐怖を感じつつあった俺は蜘蛛がとても可哀そうになったのです。






ある日、窓を開けながら仕事をしていた俺の部屋に一匹の大きな蜂が迷い込みました。慌てて立ち上がった俺は窓に向かって追い払おうとしたのですが、蜂はなかなか出て行きません。参ったなぁと頭を抱えていた俺ですが「そうだ、小さくても罠があるではないか」俺は蜂を蜘蛛に食わせてやろうと考えたのです。蜂を風呂場に閉じ込めてた次の日の朝、蜂が蜘蛛の巣に見事にかかっているのを確認した俺は「これで少しは腹も膨れただろう」ほっと胸をなでおろしたのでした。






蜘蛛が死んだのはそれから一週間後の事です。蜘蛛が死んだことは一目でわかりました。蜘蛛は自分の手足を小さく折りたたみ、小さいながらも張っていた自分の巣を綺麗に片付け、本当の隅の隅に自分の亡骸を支えるだけの僅かな糸を張って一段と小さくなって死んでいました。結局この蜘蛛は引っ越すことなく、俺の風呂場で死にました。死んでからしばらく経った今でも疑問です。鳥だって安全そうで餌が確保できそうな場所に巣を作るはずです。なのに何故この蜘蛛はこんな所に巣を作ったのか?もっと仲間の多そうな場所とか、虫が飛んでいる場所とか、どうしてそういう場所を選ばなかったのか?この蜘蛛は生涯のほとんどを餌に恵まれることなく、繁殖の機会に恵まれる事も無く死んでいったのです。何か理由があってこの場所に来たのか?誰かの生まれ変わりで俺に会いに来たのではないか?まともな考えでは無いかも知れませんが、そうも思えてきたのです。






この蜘蛛が単なる馬鹿だったのだと思いますか?それとも理由があったんだと思いますか?






著者:「オバタの拠点(仮)」オバタ

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